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執筆者の写真木津宗詮

おじいちゃんと孫

以前、表千家の堀内くんに「子供の頃は、お爺ちゃん稽古がいい。お父さんがやると、気になって細かいことを言い過ぎるので芸が小さくなる。お爺ちゃんだと、おおらかに楽しみ、芸が大きくなる。・・・と、謡の先生が言うてはりました。」と貴重なご意見をいただきました。

まさにその通りだと実感しました。高校一年の息子が小学校六年のときです。息子は小さい頃からお茶がとても好きなようでした。本当に嬉しいことでした。でも私は小学六年でお茶の稽古なんかする必要は全くないと思っていました。常々息子にはお茶なんかしなくていいと口を酸っぱくなるくらい言ってました。お茶の稽古は社会人になってからでも十分間に合います。それよりは今しかできない勉強や体験をするべきだと思っています。今からお茶なんかすれば、周りは宗匠の息子さんやからと言っててちやほや、悪気はないにしろよく言ってくれます。そんなこと言われてたらろくな大人にならない。私も大学卒業してから家元に住込み修行をして、それから一家を立てました。そして縁があって父徳至斎の養嗣子となり木津家に入り7代宗詮を襲名しました。本人にその気があれば、努力すればなんとかやっていけます。私は今の息子には茶の湯のことなんかどうでもいいと思っています。彼が本気でやるなら必ずできます。なんといっても門前の小僧なのだから。今、彼は家業でないことを精一杯勉強して、彼の能力では無理なことのように思えますが、医者や学者や弁護士や経営者、政治家になるくらいの実力を身につけなければなりません。

今の時代その家に生まれたからなにがなんでも家業を継承しなければならない時代ではなくなりました!すでに私自身が茶の湯に代々携わる家から茶匠になったわけでありません!私がいつもお世話になっている方は東大の法学部を卒業しましたが、うどん屋の長男だからうどん屋になった方がいます。現代はそうした時代ではありません。彼は自分自身がしたい仕事に携わるべきです。そして彼のその思いを家や親が潰してしまう権利は誰にもありません。私には私の人生があったように、彼には彼の人生があります。それは親であろうとも強制できることではありません彼には彼の人生を歩んでもらいたいと切望しています。ただし、彼が心底茶の湯に携わりたいと思うならそれはとても嬉しいことです。私にとって茶の湯は全ての人生を賭したものだからそれを継承してくれることはこの上もなく嬉しいことです。

彼がこれから勉強することや体験することは全て彼の茶人としての糧になるのは間違いのないことです。そして彼が茶の湯の道に進まなかった時のために父と相談して法人を設立しました。彼が卜深庵を継承しなくてもだれか適切な人がいれば理事長となり卜深庵の茶の湯を受け継いでもらえるように。

これが私の親としての彼への思いです。父は内心彼に卜深庵の茶の湯を継承してもらいたいようです。でも、父も私の気持ちと同じようで決してそのことは口に出しません。息子はおじいちゃんに稽古をつけてもらうのがとても嬉しいようです。おじいちゃんも息子の稽古を見るのがとても嬉しそうです。

この先どうなるのか。結局はなるようにしかならないのです。おじいちゃんに稽古をつけてもらった息子と稽古をつけていたおじいちゃんはこの上もなく本当に楽しそうでした。


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