草津のある寺の鐘楼の梵鐘です。よく見て下さい!金属でなくコンクリートでできています。
この梵鐘の吊り下げられた鐘楼には一切の耐力壁が存在しません。現在の建築基準法では、壁の割合が一定でないと木造建築は認められません。そういう意味ではまさに違法建築です。ただし、こういう特殊な建物は人がこの中で暮らすわけで無いので、茶室があずまや、物置のような扱いで許可されるように、多分、例外として扱われているのでしょう。
建物の美観と上部に横から雨が降込むことを防ぐ雨よけとして欄間のように彫物がはめられています。すべてが開放空間になっているのは鐘の音が響き渡るようにとの意味もあるのでしょう。柱と梁の組合せだけで完全に自立しています。屋根を支えているのは4本の柱と貫(梁)です。構造的な意味での「壁」はなく、構造的な強度は純粋に「柱組み」と、重心が鐘楼の真ん中の低位置にある梵鐘による「やじろべい」効果で鐘楼は安定して立っています。土台は硬く打たれた三和土に礎石が据えられ、その平らな部分に柱が載っているだけです。柱と礎石、土台はまったく固定されていません。すべての柱に均等に荷重が掛かっていて地震で建物がずれても4本の柱の位置は保ったままずれることはありません。
まだまだ建築の学者や専門家の間でも木造構造物の耐震強度や解析も十分に理解できていないことがあるそうです。法隆寺の五重塔や東大寺の南大門など一千年も何百年経っても健在な建物があります。むかしの職人は高等な数学や、また建築の勉強をしたわけではなく、経験に基づき体で覚えたこと、この国の風土と材料を十分に知った上でこうした木造建築に携わってきたのです。先人の知恵と技術の偉大さ。決して文化財の指定を受けたものでなくても身近に今も伝わっています。本当に素晴らしいことです。
ちなみにこのコンクリートの梵鐘は、多分戦争中に元の金属のものを供出し、代わりにそれに見立てて梵鐘の形のものをコンクリートで作り、鐘楼を安定させるために吊り下げているのでしょう。金の鐘を新たに作ることができずせめて形だけでも梵鐘にしたいとの当時の和尚の切なる思いが込められているようです。
妙なる音を聞くことはできませんが、それにしても面白い梵鐘です!
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