嗅ぎタバコ(スナッフ・Snuff)は日本ではあまり馴染みのない物です。どのような物かというと、タバコの葉を細かく砕き、鼻に吸い込む無煙タバコです。鼻腔内からすぐにニコチンを摂取でき、フレーバーの香りが持続します。一つまみほどの嗅ぎタバコを手の甲に置いたり、親指と人差し指で挟んだり、特別な器具で挟んだりして、軽く嗅いだり吸い込んだりします。その保存容器のことをスナッフ・ボックスいいます。
最初に嗅ぎタバコを摂取したのはブラジルの先住民とさ」ています。1493年のコロンブスの第2回新大陸航海の際に、フランシスコ会のラモン・パネ修道士が嗅ぎタバコを持ってスペインに帰国したことにより、ヨーロッパに嗅ぎタバコがもたらされました。その後スペイン人によりヨーロッパ初の工業用タバコ工場が作られ、「ポルボ(polvo)」または「ラペ(rapé)」と呼んで市場を独占しました。1561年、ポルトガル・リスボンに赴任していたフランス大使ジャン・ニコ(ニコチンの名前の由来)は、著作の中でタバコの薬効を万能薬のように表現し、フランス貴族たちの間でも嗅ぎたばこが広まっていくことになりました。そして嗅ぎたばこは高価な嗜好品となりました。
イギリスでは、ロンドン大疫病(1665~1666年)の後、嗅ぎタバコには貴重な薬効があると信じられ人気が高まりた。このように嗅ぎタバコはフランスからイングランド、スコットランド、アイルランドなどヨーロッパ全土、そして日本、中国、アフリカなどに広がることになります。
18世紀になると、嗅ぎタバコは上流階級で好まれるタバコ製品となり、イギリスでは、アン女王の時代(1702~14年)に需要がピークに達しました。著名な愛用者としては、法皇ベネディクト13世、ジョージ3世の妻シャーロット王妃、ジョージ4世、ナポレオン、ネルソン提督、ウェリントン公爵、マリー・アントワネットなどがいます。このように数多くの著名人が嗅ぎタバコの愛用者であったことから上流層が一般のタバコを吸う一般庶民区別する方法でもあったそうです。
写真のスナッフ・ボックスは19世紀のドイツ製のものです。直径が8センチあまりの一文字形の革細工です。蓋に猟犬を伴って狩猟をする人物の絵が精彩に描かれたまことに状態の良いスナッフ・ボックスです。サイズも形状も大変良い物なので香合に見立てました。今日は盆香合で用いました。みなさんとてもお喜びくださいました。


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