木津家に伝わる武者小路千家8代一啜斎の好みになる旅箪笥野点点前というものがあります。流儀では先代家元有隣斎が女性がするには所作に無理があるということで行われなくなりました。
桐木地旅箪笥は、天正18年(1590)の豊臣秀吉による小田原の陣に利休が従軍した折に、携帯用の点茶用具として好んだものとされています。器局型の桐木地四方の箱で、倹飩蓋(けんどんぶた)に落し込みの金具が付き、左右両側面に持ち手の横桟があり、内部に二枚の棚板があります。金具は蓋を開ける時に引手の役割を果たします。地板に水指、中棚に茶器・茶碗を飾り、上棚の左側に切込みがあり、そこに柄杓を掛けます。
一啜斎好みの野点点前は、内部に2枚の板を抜いき、大は箱と居前の間の畳の上に置き、そこに茶器と茶碗、茶筅等を置きつけ、小の板は膝前に置いて点茶をします。建水と柄杓、蓋置、そして点った茶と茶器・茶杓を拝見に出す以外はすべて板の上で点前を行います。
これは野外で毛氈を敷き、その上で点前を行うという設定です。必要以上に膝をくることはせず、またくるときは手をつきません。これは毛氈がずれないようにするためです。
かつて何度か桜や紅葉の時期の野点席で、青竹を3本組んで釜を釣り、地面に穴を空けて瓦で炉を作り、この点前をしました。まことに風情のある席になり参会者に大層喜ばれました。
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