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執筆者の写真木津宗詮

払子(ほっす)


 夜咄の茶事では花を生けることはしません。禅僧の持つ払子や如意(にょい)などが床飾りに使われます。手燭や小燈などの明かりに揺れる払子の影が、しみじみとしたわびた風情を感じさせます。

 通常の茶事で初座の床には掛軸が掛けられ、後座では花と花入になります。本来、花は特別な珍花を入れるのではなく、身近なその季節の花を亭主自らがよく吟味して野の花のように入れるるのが本義です。そうした特別でない花が尊い掛軸にとって代わるというのは、まさに花の地位が向上し、対等な位置づけにされているのです。その花の代わりに用いられる払子も同様に単なる道具でないことをうかがうことができます。

 日本画家の松林桂月所持になる唐物の払子です。桂月は山口県生まれ、野口幽谷に師事し、山岡米華らと共に日本南画会を結成し、また日本南画院・白寿会等の結成にも携わりました。近代南画の振興に多大な貢献をしました。「最後の文人画家」とも評され、小室翠雲と共に南画界の双璧と称されました。帝国美術員はじめ帝国芸術院会員、帝国技芸員、日展顧問、日本南画院会長等を歴任し、文化勲章を受賞し、文化功労者に選ばれています。

 なお、この払子には桂月自ら木蓮を画き「満林碧白(林に碧白満ちる)」と着賛した袋が伴っています。



毎年、節分茶会で用いる大綱和尚の「払子と金棒の絵茶碗」です。「金棒」は鬼を表して、「払子」は煩悩わ払うことから鬼を払う福の神です。まことに機転のきいた茶碗です。



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