和歌浦の袋貝(檜扇貝)の内側に金箔を張って香合としたものである。
檜扇貝とは扇形の形状で、殻頂の前後に耳状突起があり、赤、橙、黄、紫などの色の貝がある。名前のいわれは、形や色をヒノキ材の薄板を束ねて作った桧扇に例えたことによる。
松斎が和歌山に出仕した時に入手した貝殻を香合にしたものと考えられ、箱書に唐代の詩人杜牧の「山行(さんこう)」の詩の一節である「霜葉紅於二月花」と認められ、この貝に赤く紅葉した楓を連想たものであろう。
山行 杜牧
遠上寒山石徑斜 遠く寒山に上(のぼれ)ば石径(せきけい)斜めなり
白雲生処有人家 白雲生ずる処人家有り
停車坐愛楓林晩 車を停(とど)めて坐(そぞろ)に愛す楓林(そうりん)の晩
霜葉紅於二月花 霜葉(しょうよう)は二月の花よりも紅なり
遠くはるばると晩秋の寒々とした山に登ってみると石の小道がくねくねと続いてる。遥かに遠くを見渡せば仙境ともいうべき深山にも人家がある。車を停めて、何気なく楓林の夕暮れを味わえば。霜が降りて赤くなった木々の葉は、二月(新暦三月下旬~四月)に咲く花よりも赤い。
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