これも今年の名残です。聿斎牛自画賛「山路日落満耳者(山路・さんろに日落ちぬ耳に満・みてるもの)です。
出典は『本朝文粋』紀斉名の「暮春遊覧、同賦逐処花皆好」です。
この句は、「山路日落満耳者樵歌牧笛之声、澗戸鳥帰遮眼者竹煙松霧之色」で、山路に日落ちぬ、耳に満てるものは樵歌牧笛(せうかぼくてき)の声、澗戸(かんこ)に鳥帰る、眼(まなこ)に遮(さいぎ)るものは竹煙松霧(ちくえんしようぶ)の色を抜粋しています。
桜狩りに日を暮すうちに、山路に日が落ちて、耳に聞こえるものは、ただきこりたちの歌声や牧童の笛の音だけです。鳥たちも谷間のねぐらに帰ってゆき、あたり一面、ただ竹やぶや松林の夕靄にぼうっとかすんでいる。といった意味です。まさに春たけなわの長閑な山野の風情を歌った内容です。
手前味噌で恐縮ですが、前回の牛車の玩具の絵といい、この牛と農夫の絵といい、聿斎は製図に巧みだあっただけあり、素人とはいうもののとても絵が上手です。後の子孫は全く及びません。
この軸も今回をもって12年の長きに亘りお蔵入りとなります。次に床に掛ける時には、死んでいるかもしれません。それでなくとも健康な状態で迎えることができるかと思うと、なんとも感慨深いものがあります。ある意味、干支の道具は本当に贅沢なものです。
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