• 木津宗詮

雪気もはれて

 可

 悦

昨秋より不快ニ有之を、

野田氏御治療にて当春

快復、悦ひのあまり 

 長閑なり

   雪気もはれて

       春の山

初代松斎宗詮の置字「可祝」です。このように最初に太字で書かれたものを「置字」といいます。置字「可祝」を補足する意味で細字で「長閑なり雪気もはれて春の山」の発句が書かれています。

嘉永3年(1850)の秋に松斎は病気になり、野田という医師の治療を受けました。翌年の春には回復し、その時の思いを認めたのがこの軸です。

 そして翌4年の11月6日に、息子の得浅斎が亭主となり松斎全快祝いの茶事が催したことが記されています。『鐘奇斎日々雑記』に記されています。『鐘奇斎日々雑記』は松斎の茶の湯の門人で道修町四丁目で開業していた医師岩永文禎が記した備忘日誌です。その内容は天保13年(1842)から慶応2年(1866)の死ぬ直前までの約20余年にわたり、個人的動静はじめ、家族や交友関係、職業上の記述・災害・芸能・噂話等さまざまなことが認められ、松斎に関する多くの記録も残しています。以下、当日の茶事の項です。

六日 晴 俄正午茶事 一方庵ニて

  宗隆亭主宗詮全快の茶事、拙・古林・藤井・備竹

床 千道安文

釜 天猫 アラレ

香合 呉州 八角 蟹の画

炭斗 皮 但フルシ

灰入 □□

花生 一重 吸江斎 銘鶴

水指 真伯手造 ヒヨウタン形

茶入 利休形小棗 普斎判

袋 とんね広東

茶碗 古唐津 (絵)

茶杓 僖首座 共筒

薄茶入 宗安好茶桶 蔦の木 吸江箱 棗の内金箔

八曲□ 此余□は道安形 □合十出来 

 会席 仙叟溜不切折敷 面通椀

原叟兜皿 了入

向 鯛 幽安やき 合ミそ

汁 ヒクス白豆腐 コマチンヒかけ

坪 鴨身 湯皮 芋二ツ皮少 ウドメ

木地八寸 カラスミ 報恩寺納豆

下総房州 サカラワン 

吸物 こんふ のり

一閑フチ高 宗全好

菓子 皮ムキまん 内□□□ ヨモキアン アツキ

惣かし 小みとり

煙草盆 一閑ツルベ

火入 九朗 瀬戸写

 引続薄茶乞

 この茶事は突然に平瀬家の一方庵で催された茶事でした。掛物の道安文の内容は不明ですが、わざわざ全快の茶事ということなのでその趣旨にそったものかと思います。花入の「鶴」は長寿、香合の蟹は華甲で長寿の祝う還暦、水指の瓢箪形は「壺中日月長」で瓢箪の中は不老不死の桃源郷、菓子のよもぎ餡も季節外れのよもぎを用いていますが、仙人のすむ蓬莱山など、無事に病が癒えてますますの長寿を願っての取り合わせと考えられます。

 この時の松斎の心境は、長く薄暗い雪空の中の、まさに冬ごもりのような闘病生活からようやく脱し、暖かい春を迎えたうららかな山の風情にも似た壮快な心境だったのでしょう。さっこんの新型コロナも、一日も早くワクチンや薬が開発され、不安な世情が落ち着いて、晴れ晴れした日を迎えたいものです!


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