八十八夜
夏も近づく八十八夜
野にも山にも若葉が茂る
あれに見えるは茶摘みぢやないか
あかねだすきに菅の笠
田中訥言の茶摘図です。覆下(おおいした)の茶園で、頭に手ぬぐいを被り、縞の着物に赤い前掛け姿の女性が茶を摘んでいます。茜襷はしていませんが、この前掛けは茜染めのようです。
覆下茶は葭簀や藁で20日間ほど茶園を覆って日光をさえぎり、新芽が2~3枚開き始めたころに摘んで製茶した茶です。碾茶(抹茶)や玉露がそうです。光を制限して新芽を育てることにより、アミノ酸(テアニン)からカテキンへの生成が抑えられ、渋味が少なく、うま味が豊富な味になります。ちなみに、現在は取り扱いの良さ、耐久性の強さなどから、ほとんどの茶園で寒冷紗が用いられています。
なお、「茜襷」は茜の根で染めた襷のことです。草木染の太田藤三郎氏は、茜は止血剤として用いられ、茶摘みは素手の作業で指先に怪我をしやすいので、襷の茜成分を擦り込みながら作業をするという先人の知恵だそうです。
今日は「八十八夜」です。暦の二十四節気とは別に、「節分」や「彼岸」「入梅」「半夏生」「土用」等を雑節といい、主に生活や農作業に照らし合わせてつくられた特別な暦日のことです。古くから生活の中に溶け込み年中行事や民俗行事となっているもが多いです。
八十八夜は日本独特の雑節です。立春からかぞえて八十八日目にあたる日で、だいたい5月2日になります(閏年は5月1日)。八十八夜は春から夏に移る節目の日で、「八十八夜の別れ霜」といい、このころまで泣いても泣ききれないほどの遅霜が、農作物や果樹に思いがけぬ被害を与えることがあり、特に注意を喚起することばです。八十八夜を境に霜もなく安定した気候となり、茶摘み、苗代のもみまきなど農作業の目安の日とされてきました。
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