子日の松

ようやく立春を迎えて春になったというものの相変わらず厳しい寒さです。地域によっては大雪とのことです。春の訪れを実感できるのは、今しばらく時間がかかるようです。 今日の稽古の床は賀茂季鷹の筆になる季鷹と大徳寺大綱宗彦の「子日松贈答歌」です。花入は三原さんから頂いた青竹の二重切に鴨本阿弥と紅梅を入れました。


 紫野黄梅院長老のとはるに、  をりしも挽おきのなくてすへなさに               季鷹  我宿のうすも子日の松ならは来てひく  人のあらまし物を、と書て臼に  添て出し置しに、折ふし長老も相  しれる人京より来けれは、いさ  ひかんとて             大綱長老 君かうすや子日の松と成にけむ  とひ来る人の手毎にそひて


大徳寺黄梅院の大綱が季鷹のもとを訪ねてきた時、折しも茶の挽き置きがなくなす術がなく、 わたしの宿の茶臼が子日(ねのび)の松ならば、わたしのもとにやって来て臼を挽いてくれる人もいるのだろうが、 との内容の歌を詠んで臼に添えて贈ったところ、大綱も知っている人が京から来たのでさあ挽こうといって、 あなたの臼が子日の松になりました。訪ねて来る人ひとりひとりの手が添えられています。 大綱の歌は「子日の松を引く」を「臼を挽く」に掛けて詠んでいます。それを臼に添える。二人の和歌の巧みなやりとりが素晴らしいです。なにより季鷹のとっさの機転がとても見事です。 「子日の松」とは正月初めの子の日に、外出して小さな松の木を引き抜いて長寿祈願をする貴族の遊びです。「子日の遊び」ともいい、その淵源はわが国古来の春の野遊びの習俗を根底とし、丘に登り四方を遠く望んで陰陽の静気を浴びて憂いを除くという中国の習慣とが一つになってはじまった正月行事とのことです。宮中では現在の大徳寺周辺の紫野(京都市北区)などの郊外に赴き、若菜を摘みそれをあつものにして食べ、そして千年の齢をもつとされる松の若木を根から引き抜いてその長寿にあやかるという形で行われていました。若菜のあつものは七草粥とも深い関わりがあるとのことです。ちなみに今年の初子は旧暦1月4日で一昨日の2月4日立春の日でした。 正月、松の内に家の門に立てる根引の小松は歳神の神籬ですが、毎年、この小松を見るたびに、その青々した瑞々しい美しさを「子日の小松」を重ね合わせて愛でています。