• 木津宗詮

糊こぼし

 東大寺二月堂のお水取り、正式には「修二会」といい、毎年3月1日から14日まで2週間にわたる行事で「十一面悔過(けか)」とよばれ、二月堂の本尊十一面観音菩薩に自ら犯した罪や過ちを悔い改め、その功徳により仏法の興隆、天下の泰安、万民の豊楽、五穀の豊穣などを祈る法要のことです。特に12日の夜から13日の早暁にかけて閼伽井屋の香水を汲むのを「お水取り」とよび、その香水が本尊十一面観音に供えられます。


 お水取りといえば、期間中毎日、童子が松明を舞台の欄干からダイナミックに火を振り回すのが有名です。12日は一回り大きな籠松明が舞台から出されて大量の火の粉が舞い落ちるのが見応えがあります。12日のみ11本、他の日は10本です。この籠松明は長さ8m、重さ70kg前後あり、バランスを取るために根が付けられています。他の日の松明は長さ6~8m重さ40kgとのことです?この松明の火の粉を浴びると健康になる、あるいは幸せになると信じられています。また燃えかすを持って帰り護符の代わりにするひともいます。


 2月23日に事前の行に入っている僧侶「練行衆(れんぎょうしゅう)」らが、戒壇院別火坊(かいだんいんべっかぼう)の広間で本尊十一面観音に供えられる椿の造花を作る「花ごしらえ」が行われます。この造花は平安時代の仏教説話集『三宝絵詞』の「修二月」に、「つくり花をいそぎ、名香をたき、仏の御前をかざり」と記されています。タラの木を芯にクチナシで染めた黄色い和紙を雄しべにして巻き、紅白の和紙を花びらに見立てて整えられます。染料となるベニバナは水につけ黄色の色素を落とし、わらの灰汁(あく)を入れてもんで紅い液を出し、澄んだ色にするため奈良・月ケ瀬の烏梅(うばい・梅の未熟な実の燻製)を使うそうです。そしてこれで黒谷和紙を染めては乾かした紙を用いて約400個の造花を作るとのことです。この椿の造花を「糊こぼし」とよび、造花を造るときに練行衆が糊をこぼしたようだということからそうよばれています。



 かつて薄っすらと灯明の煤がついた実際にお水取りで供えられた椿の造花「糊こぼし」を華籠(けこ)に盛って飾りました。経典に仏が説法するときは,天人が仏を讃嘆して天から花が降らせたとあり、法要で仏のまわりをめぐりながら花を散らすことを「散華(さんげ)」といいます。もともとインドで花や香を地にまいてその場を清めたことによるそうです。華籠はその散華の花を盛る器です。


 二月堂の下にある開山堂の椿は、赤い花に白い斑点が入り「糊こぼし」、また開山の良弁僧正に因んで「良弁椿」と呼ばれ、白亳寺の「五色椿」、伝香寺の「散り椿」とともに「奈良三銘椿」の一つに数えられています。また、奈良の和菓子屋では、修二会ゆかりのこの「糊こぼし」をかたどった和菓子が作られて3月中旬まで販売されています。


関西では「お水取りが済むと春が来る」と言われています。いよいよ爛漫の春が訪れます。

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