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執筆者の写真木津宗詮

富貴草

 今日の京都鶴屋のお菓子は富貴草です。餅皮で紅餡を包んで牡丹の型で抜いています。味はやわらかい餅と紅餡のバランスがよく、とても上品な仕上りの菓子です。

 さて、富貴草とは牡丹の別名です。中国北宋時代の儒学者、周敦頤(しゅうとんい)の「愛蓮説」に、


予謂(おも)へらく、菊は華の隠逸なる者なり、牡丹は華の富貴なる者なり、蓮は華の君子なる者なりと。


花の中では、菊は俗世間から逃れた者、牡丹は花では富貴な者、蓮は君子であるとしています。富貴とは富んでいて貴い、すなわち財産があって身分が高いということです。見事な大輪を咲かせる牡丹はあでやかな姿で他の花を圧倒し、王者の風格を具えていることから花の王者ということから「花王」とか「百花王」、「花中王」とよばれています。他にも「天香国色」、「名取草」、「深見草」、「二十日草」、「忘れ草」、「鎧草」等の別名もあります。ちなみに「花宰相」は風情はありますが華麗さでは牡丹に及ばない芍薬の別名です。

 牡丹の原産地は中国西北部で、わが国には奈良時代に唐から渡来しました。当初は薬用目的に栽培されましたが、のちに観賞用として愛好されてきました。根皮が頭痛・腹痛・腰痛・婦人病などにに効くそうです。なお、牡丹の名称は中国語そのままで音読みになります。そして「牡(ボ・ボウ)」は雄を表し、「丹(タン)は赤を意味しています。花は紅色が最上とされ、紅色の牡丹の種子であっても必ずしも紅色の花がつくとは限らないことから、「赤い子ができない」から「子ができない赤」、そして「雄の赤」となり「牡の丹」となったとのことです。

 古来、中国では牡丹は詩歌に盛んに謳われています。特に唐の李白は「清平調詞」に、白居易は「長恨歌」で楊貴妃を牡丹になぞらえています。わが国では『枕草子』138段「殿などのおはしまさで後」が最初です。そこには「対(たい)の前に植ゑられたりける牡丹などのをかしきこと(対の屋の前に植えられた牡丹が趣がある)」とあります。

 牡丹の花言葉は「風格」「富貴」で、英語の花言葉は「bashfulness(恥じらい、はにかみ)」「compassion(思いやり)」です。絹の布を幾重にもまとうような気品あふれる優雅な花ですよね。用の東西で牡丹に抱くイメージが対照的なのがとても興味深いです。









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