日ごとに陽が短くなり暗くなるのが早くなるってきました。まさに「つるべ落とし」とはよくいったものです。それがまた秋の夕べの寂しさを増しています。
秋夕
通村
うきなからあれは
あるよのならひにて
たへていく世の
秋の夕くれ
鬱きながらあればある世の習ひにて
絶へて幾世の秋の夕暮れ
中院通村の「秋夕」懐紙です。
秋の夕べは人の心をふさぐもので、毎年毎年絶えることなくこれが世の習いなのです。
4行目の最初の一字は、「秋」の偏(へん)と旁(つくり)を左右逆に書いた異体字です。偏は意味を表わし、旁は音を表わしています。漢字の造字および運用の原理を6種類に分類した六書のうちの形声です。偏と旁は原則として、左右・上下・内外等決められていますが、それを組み替えても漢字の意味は同じです。ただしすべての漢字がそのように書かれるわけではありません。
「六書(りくしょ)」とは、
象形 - 物の形をかたどって字形を作ること。日・月・木・耳など。
指事 - 位置や状態といった抽象概念を字形の組み合わせで表すこと。上・下・本・末など。
形声 - 類型的な意味を表す意符と音を表す音符とを組み合わせて字を作ること。江・河など。
会意 - 象形と指事によって作られたものを組み合わせて新しい意味を表す字を作ること。信・武・林・炎など。
転注 - 用字法の一つとする説が有力であるが、定説はない。
仮借 - 他の同音・類字音の字を借用すること。「わたし」の意味に「我」、「そうだ」の意味に「然」、「くる」の意味に「来」など。
「秋」以外にも「松」や「梅」は編を上、旁を下に書く異体字があります。また、「松」は分解して「十八公」と書くこともあります。むかしの人の粋な遊び心が伝わります。
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