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蝉時雨

執筆者の写真: 木津宗詮木津宗詮

本格的な夏の到来とともに、普段は森閑としている林や森、神社仏閣の境内、街中の街路樹や公園で、耳をつんざくばかりの大音響の蝉の声が聞こえます。まさに喧騒の巷です。この蝉の鳴いている様を時雨の降る音にたとえて「蝉時雨」といいます。ちなみに時雨は秋から冬にかけて一時的に風が強まり、急にぱらぱらと降ったり止んだりする雨のことです。蝉も時雨のように一斉に鳴き始め、そして気まぐれに一斉に鳴き止みます。そのやかましい鳴き声が頭上から降り注ぎ、また突然に止む様はまさに「時雨」そのもです。この騒がしく暑苦しい蝉時雨に包まれると心なしか周りの気温が数度上がった気分になります。

蝉の幼虫は地中で7年の長期わたり生活するそうです。そして地表に穴をこじ開けて這い上がり羽化して成虫となります。種類にもよりますが地上での日々は7日ほどで死んでしまいます。雄は早朝から夜まで全身全霊で鳴き続けて雌に求愛をして交尾して命が尽き、雌も産卵して死んでしまいます。だから蝉時雨は彼らの生きている証でもあるわけです。ちなみに蝉の命を儚いものの例えにしますが、実際、地上生活が7日ですが、地下での生活が7年・2555日で、他の昆虫に比べると断然長生きです。決して儚い命ではありません。

同じ人生ですから大輪でなくていいので、たとえ小さくてもいいので花を咲かせたいものです。ただし、私は蝉のように我慢強くありません。同じ花を咲かせるのにこれほどの時間を耐えることは私には到底できません。蝉の地下での雌伏の期間は地上の365倍という途方も無い時間です。

汗を吹く茶屋の松風蝉時雨  

正岡子規


 
 
 

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