• 木津宗詮

元旦

  惣而(そうじて)朝・昼・夜トモニ、茶ノ水ハ暁汲タルヲ用ル也、コレ茶ノ湯者ノ

  心ガケニテ、暁ヨリ夜マデノ茶ノ水、絶ヌヤウニ用意スルコト也、夜会トテ、ヒル

  已後(いご)ノ水不用之(これをもちいず)、晩景(ばんけい)半夜マデハ陰分

  (いんぶん)ニテ、水気沈ミテ毒アリ、暁ノ水ハ陽分ノ初ニテ清気ウカブ、井華

     (せいかすい)也、茶ニ対シテ大切ノ水ナレバ、茶人ノ用心肝要也


 『南方録』覚書です。「井華水(せいかすい)」とは寅の刻に汲んだ水をいいます。寅の刻とは午前4時のことで、厳密には日の出から約3時間前から1時間前までを指します。

 寅の刻の前の丑の刻は陰気がもっとも深く強くなる時刻で、丑と寅との時刻を境として陽気が徐々に上がってきます。ちなみに「草木も眠る丑三つ時」は陰気がもっとも極まった時刻で、陰気の最たるものである幽霊や物の怪が出ると考えられたのです。陽気はプラスの力、陰気はマイナスの力です。しかしながら陰陽いずれかに偏るのはかえってよくなく、プラスの力とマイナスの力のバランスのとれたものなのがいいとされています。そうしたことから寅の刻の水は陰陽が混じり始めたバランスのとれた水なのです。そうしたことから古来、最も澄んだ清浄な水で、これを飲めば若返る豊かな生命力を持つ水と信じられてきましたのです。なお、陽気がどんどん増していくのは日の出以降で太陽が中天を過ぎるまでが陽気が盛んな時刻となります。

 また、同書には、

  鳥啼て起テ炉中改メ、下火入、一炭シテ、サテ井ノモトヘ行テ清水ヲクミ水ヤニ持参 

  シ、釜ヲアラヒ水ヲタゝ、炉ニカクル、コレ毎暁茶室ノ法也

と茶の湯者の心得が書かれています。本来、この心がけでなければならないのですが、まことに残念なことですが、今日、このような日々を行うことができず、家訓としてせめて元旦だけでもそれを実践するようにしています。

 元旦の寅の刻、すなわち午前4時に釜の水を若水に改めます。そして大晦日の夜に炉中の炭を埋み火をした炉中を改め、火種に新たに炭を足します。釜の湯が煮えたころに家族一同で新年の挨拶を交わして雑煮で祝い、私が新年最初の濃茶を点てます。これは新年を迎えた喜びを寿ぎ、その年の無病息災を祈って飲む「大福茶」といいます。神さんはじめご先祖、利休さんに飲んでいただき、家族、そして最後に私がお相伴をします。その後、家族一同で氏神さんである吉田神社に初詣をし、祖霊社でご先祖に新年の挨拶をするというのがわが家の元旦です。

 今年もおかげさまで無事に大晦日から元旦の恒例行事を無事に終えました。そして家元の年始を終えて家族一同で夕食を終え、長い一日が終わろうとしています。

 最後に、本年も昨年同様、相変わらずご高覧くださいますようお願い申し上げます。






以上、大福茶


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