好々斎の門人で、幕末の大阪の俳優市川助寿郎の狂歌です。屋号を大和屋、俳名素桐。武道事の立役(たちやく)や老実を本領としたそうです。
御水屋にて
千宗守手造の茶盌の
われたると聞て
数々に色を
ましたる
赤茶碗
これハ
惣朱に
繕ふか
よし
素桐(花押)
誰かが水屋で千宗守手造りの茶碗を割ったと聞いて一首詠みました。赤茶碗が割れてそのかけらが赤だけでなくいろんな色に増えました。そこでこの茶碗は惣朱。すなわちすべて赤だけで繕うのがいいだろう。
まことに上手に赤茶碗を詠み込んだ狂歌です。本当に機知に富み、洒落っ気があふれています。割った本人はさぞかし気落ちしていたことと思います。でもこの一首でほんの少しだけ救われた気分になったのでは。
伊賀越道中双六の沼津の段・右が蜘介平作役の市川助寿郎。
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