入江相政の『宮中侍従物語』に、
ある夏の終り頃、侍従になってまだ日の浅い田中直氏が、天皇陛下のお留守中に、陛下のお住まいの吹上御所の庭の草を刈り払ってしまいました。
お帰りになられた陛下から、
「どうして庭を刈ったのかね」
と尋ねられ、
「雑草が生い茂ってまいりましたので、一部お刈りしました」
と、おほめの言葉を期待しつつ答えました。
すると陛下から、
「雑草ということはない。どんな植物でも、みな名前があって、それぞれ自分の好きな場所で生を営んでいる。人間の一方的な考え方でこれを雑草としてきめつけてしまうのはいけない。注意するように」
というお叱りを受けたそうです。
昭和天皇は植物学者として著名です。この「雑草ということはない」は、植物をこよなく愛された昭和天皇が、植物学者の立場だけで発せられたお言葉という解釈では不十分だと思います。天子としてのお言葉と解釈しなければなりません。
太陽も月も分け隔てなく万物を照らします。天子たるもの万民に等しく慈愛を垂れなければなりません。そういうお心が根底にあってのお言葉だと私は解釈します。
私たちは天皇と同じというわけにいきませんが、上に立つものは常にこの心がけが大切です。
ふむなゝゝゝいつくの草も
花心
大石内蔵助義雄
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