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執筆者の写真木津宗詮

奈良県桜井市の大神神社(おおみわじんじゃ)は三輪山がご神体で、三輪山の杉の木をご神木として古来神聖なものとされてきました。ご祭神の大物主大神(おおものぬしのおおかみ)の助けで一夜で美酒をかもしたという伝承から,酒屋では大物主大神のご神威が宿る杉の葉を束ねて酒屋の軒先に吊して酒屋の看板とする風習が生まれました。これを「酒箒(さかぼうき)」とか「酒旗(さかばた)」、「酒林(さかばやし)」「杉玉(すごだま)」とよびます。今日も酒造業者に大神神社から「しるしの杉玉」が授与され、また、拝殿と祈祷殿に吊るされている大杉玉も一年に一度、11月14日の酒まつりの前日に青々としたものに取り替えられます。




杉玉は杉の葉を集めてボール状にしたもので、これを吊るして新酒が出来たことを知らせる役割を果たしています。吊るされたばかりの杉玉は蒼々としていますが、やがて枯れて茶色がかってきてそのの色の具合で新酒の熟成度を伝えるのだそうです。




杉を標にするということで思い出した茶の湯に関する話があります。宗旦四天王のひとり杉木普斎の伝記資料としては福井随時が編集した『普公茶話』に、寛文10年(1670)の伊勢山田の大火に罹災した折、早速、普斎が仮小屋を建て茶の湯をしたという逸話です。ある時、普斎が茶友を集い、縁台を二脚並べてその上を茶席になぞらえ茶事をしました。腰掛待合は知人の仮小屋を借り、その場所が離れているので、竹竿の先に杉の青枝を付けて高く掲げ、客もそれを目印に席入りしました。その後、くだんの腰掛待合に中立し、後入の知らせに、普斎は小鼓を打ちながら、


わが庵は三輪の山もと恋しくば、とぶらひ来ませ杉立てる門


と、謡曲の「三輪」の一節を謡ったとのことです。普斎の当意即妙でどのような時でも侘びの心を忘れず、茶の湯への執心の厚い茶人としての覚悟を窺い知ることができる逸話です。




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