菖蒲
菖蒲はさといも科の多年草で、湿地に自生し、根茎は長く、葉は剣状で全体に芳香がある植物です。古くは菖蒲を「あやめ」と呼びました。菖蒲の葉の形が刀に似、邪気を祓うような爽やかな香りを持つことから縁起の良い植物とされ、軒に葺いたり、屋根に載せたりしました。『枕草子』にも、
いたうものふりぬ檜皮葺きの屋に、長き菖蒲をうるはしう葺きわたしたる、青やかなり
とあります。
菖蒲は、奈良時代の聖武天皇の頃より五月五日の端午に使われ始め、武士が台頭してからは「しょうぶ」の音から「尚武」という字が当てられ、また勝負にも通じ、勝負に勝って強く元気な男の子に育つことを願うようになりました。なお、芳香を放つことからを風呂に入れ悪疫を退散させる菖蒲湯の習慣も生まれました。
平安時代の宮廷での歌合せに「菖蒲の根合せ」(あやめのねあわせ)の行事がありました。「菖蒲合せ」あるいは単に「根合せ」といわれ、端午の日に左右に分かれて菖蒲の根の長短を比べあい、和歌を詠み添えて勝負を競ったものです。同じく『枕草子』に、
青き紙に菖蒲の葉、細く巻きて結ひ、また白き紙を根して引き結(ゆ)ひたるも、をかし。いと長き根を文(ふみ)の中に入れなどしたるを見る心ちども、艶(えん)なり。
とあり、菖蒲の根が長いことを良いことしています。
5月5日に上賀茂神社では菖蒲の根合せが行われます。競馬(くらべうま)を行う乗尻(のりじり・騎手)が菖蒲を持ちよって、馬で勝負を着ける前に菖蒲の根の長さを競うという神事です。平安時代に宮廷で行われていた遊びの流れを汲んでいます。

江戸後期の公家庭田重嗣竪詠草菖蒲です。祐真は法名です。
菖蒲
たか軒も五月祝てふきわたす
あやめの草根長く朽せし
端午の日を祝って高軒を葺きわたす邪気を払う菖蒲の根は、長く朽ちないめでたい草であるとたたえています。




