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花なき里

 たっぷりと墨を含ませて大中小の雁の姿を描き、「帰」と大書した大徳寺僧堂師家の川島昭隠の「帰雁」です。まことに洒落た軸です。



 『古今和歌集』の伊勢の歌に、


 春霞立つを見捨ててゆく雁は

 花なき里に住みやならへる


平安時代の女流歌人で有名な伊勢は、藤原継蔭の娘で、宇多天皇の后である藤原温子(七条の后)に仕えました。そして宇多天皇との間に子をもうけますが、幼くしてなくなり、その後、宇多天皇の皇子である敦慶(あつよし)親王との間に中務(なかつかさ)をもうけました。

 人々が待ちこがれていた春霞が立ち美しい花が咲くよい季節になったのに、それを見捨てて北へ帰ってゆく雁は、「花なき里」に住み慣れているのか。雁を人にたとえ、みなが待ち望んだ春を見捨てる雁をうがってみせた歌です。

いよいよ初夏は目の前です。雁は遠くシベリアなどの北国に帰ります。





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