昨日、薄さんのお宅で拝見した土田湖流遺愛の茶箱を見せてもらいました。実際は3代聿斎好みの一閑張りの菓子器です。かつて私が手に入れたのがこれです。側面に杜甫の絶句の一節が朱漆で認められています。
両箇黄鸝鳴翠柳
一行白鷺上青天
両箇(りょうこ)の黄鸝(こうり)翠柳(すいりゅう)に鳴き
一行の白鷺(はくろ) 青天に上(のぼ)る
二羽のうぐいすが緑の柳に鳴き、一列になった白鷺が青空高く上がっていく、そんな光景です。
箱書に「加陽虫かこにて」とあり加賀の虫籠だったことがわかります。「提ものにても」とあり、物を入れて腰にさげてもいいとしています。湖流はこれを茶箱に見立てたのです。
湖流遺愛の品には、「蟋蟀のこゑもとらるゝ水の音」と漆書していて、「以加州虫籠好之 聿斎」、蓋の甲には「菓子器」と認めています。また箱の側面には、
己未八月十二日宅氏
菁華湖流等ト
加州山中こうろき
橋畔に令遊せし
紀念として令造也
とあり、己未は大正8年、今から105年前に、湖流と宅、菁華らと山中温泉に遊んだ時の記念として好まれた旨が記されています。この時の湖流は四代湖流で、その翌年の3月に25歳で亡くなっています。二人は当時としては珍しく恋愛結婚だったそうで、五代湖流にとっては愛しい夫の形見の品であったのでしょう。だからあんな立派な漆の箱に入れて大切にしていたのでしよう。この茶箱に込められた五代湖流の切ない思いにじんとくるものがあります。
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