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夏は涼しく

執筆者の写真: 木津宗詮木津宗詮

更新日:2020年12月11日

 夏は涼しく。利休さんの茶の湯の教えである「利休七箇条」のひとつです。まことに簡単なようですが、これを実践するのはまことに難しい事です。

 エアコンや扇風機のなかった時代、いくら今よりはまっしだったといっても、日本の夏は暑くて辛くて過ごしにくい季節でした。そうした夏の思いを言い表した和歌があります。『新古今和歌集』夏の素性法師のに、


惜しめどもとまらぬ春もあるものを

言はぬにきたる夏衣かな


春が行ってしまうのは残念なことですが、季節の移り変わりでどうすることも出来ません。夏に「来い」と言ったわけではないのに夏になって「着る」夏服であることよ。春への惜別の想いと、夏の到来を嫌がっている歌です。

 それに対し、『古今和歌集』夏の巻末歌の凡河内躬恒には、


夏と秋とゆきかふ空の通い路は

かたへ涼しき風や吹くらむ


去りゆく夏と訪れる秋が行き違う空の通り路では、片方にだけ涼しい風が吹いているのでしょうか。ようやく夏の終わりを迎え、待ちに待った涼風の吹く秋がやってくる喜びに溢れています。まさに夏は我慢の三か月間だったのです。

 住宅に関しても、『徒然草』第五十五段 には、


家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬は、いかなる所にも住まる。暑き比わろき住居は、堪へ難き事なり。


住まいの建築は、夏を基本とするのが良い。冬は、どんな場所でも住もうと思えばどこにでも住める。しかし夏の暑い時期は暑さを凌げない住宅は我慢ならない。

 このようにむかしの人は、格別夏、それも夏の暑さを嫌っていたかがわかります。『徒然草』のこの一節のように、住宅を建てるにあたり夏の暑さをしのぐことができるようにするのがその根本とされてきました。開放部をできるだけ多く取り、床下に空間を開けて風通しをよくして暑さと湿気が家に籠らないようにしています。高温多湿の日本の風土に適した住宅です。



 ちなみに韓国も夏は日本同様夏は暑いですが湿度はそれほど高くありません。大陸型ではありませんが、半島の冬はまことに厳しい寒さで、「冬をむねとする」住宅です。床下を土の基壇とし、その中に沿道を設けかまどの焚き口から煙突に煙を流しその熱をゆかの暖房に利用するオンドルを設け、壁も天井も土でその上に紙を貼り、押入れなど収納を作らず、また、窓などの開放部は極力無くし、保温性の高い住宅を建てます。実際、ソウルの両班の屋敷に泊まってオンドルを何度か体験しましたが、外部の顔を刺すような寒さに比べ、内部は体の芯から温まるまことに心地よいものです。兼好法師の住宅論は洋の東西を問わず、その風土にに即して建てるという意味では至極名言です。

 茶の湯では、露地の打水を十分に施し、道具も水がたっぷり見える平水指や平茶碗、ガラスや金属など涼感を感じさせる道具。また、軸には滝など水に関連するもの。雪や氷といった冬のものですがやはり涼感を感じさせる内容の掛軸が用いられます。料理の献立も同様です。菓子は葛や寒天を用いた琥珀糖などを好んで用いて涼しくする工夫をしています。

 千種 有功(ありこと)の詠草「納涼」です。


舟もあらば浮き寝うらまし水鳥の

鴨の川浪清く涼しも


ああうらやましいことだ。もしわたしに舟があるなら、水面で浮き寝をする水鳥のように鴨川の清く涼しい川浪の上で涼をとるのだが。

 夏の暑さを凌ぐ想いから、この歌のように「納涼」とか「氷室」とか「夏月」とか「夕立」などの題で歌を詠んでいるのです。逆に、わずかな木陰や川風、川波、氷、滝等を詠むことは、むかしの人がいかに暑さを忌み嫌っていたかをうかがうことができます。これらの涼しい歌は、彼らがあたかも見たり、触ったり、体験したりした感触の記憶を描いているのです。

 毎年のことですが、去年より今年のほうが暑いということばを耳にします。温暖化だとかいろんなことがいわれてます。本当にうだるような暑い日々が続きます。8月7日が立秋です。それ以降は残暑となります。少しでも涼しくなることを念願して止みません。

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