• 木津宗詮

向春

最終更新: 3月20日



 氷封水面聞無浪    丙子初秋抄書菅家詩句愈好斎(花押) 氷は水面を封(ほう)じて 聞くに浪なし                         愈好斎一行「氷封水面聞無浪」です。丙子は昭和11年で10月8日から5日間にわたり北野大茶湯の350周年を記念して「昭和北野大茶湯」が開かれました。この軸はその記念に認められたものです。この大茶会は28カ所に延べ102席が設けられ、全国から集まった参加者は、初日にはニ千数百人に及んだそうです。なお、北野大茶湯は、天正15年10月1日に豊臣秀吉が聚楽第の竣工を祝って開いた大茶会です。秀吉秘蔵の名物茶器が披露され、秀吉や千利休らが亭主をつとめ、公家や大名、堺や奈良、京の茶人だけでなく、「貴賎や貧富を問わず茶に興味のある者なら誰でも参加せよ」との趣旨のもと、1000人以上の参会者で賑わいました。




 「氷封水面聞無浪」の句は出典は菅原道真の詩文集『菅家文草』卷一 の「臘月独興(ろげつどっきょう)」という詩が出典です。道真十四歳の時の作になる漢詩です。               臘月独興                       于時年十有四    玄冬律迫正堪嗟 還喜向春不敢賖     欲尽寒光休幾処 将来暖気宿誰家      氷封水面聞無浪 雪点林頭見有花      可恨未知励学業 書斎窓下過年華               臘月独興                      時に年十有四    玄冬律迫(せま)り正に嗟(なげ)くに堪え    還って喜ぶ春に向かはんとして敢えて賖(は

   る)かならざることを    尽きなと欲する寒光幾ばくの処にか休(や)

   まん    将に来たらんとする暖気誰が家にか宿らん    氷は水面を封じて聞くに浪無し      雪は林頭に点じて見るに花有り    恨むべし未だ学業に勤むることを知らずして    書斎窓下年華を過ぐさんことを   今まさに冬が終わろうとしている。そして今年も過ぎ去っていくと思えばそれはまさに嘆くに値する。 しかしながら、それだけいっそう春が近づいているのだと思うとかえって喜びがましてくる。春がやってきたらこのつめたい冬の光はどこへ行って休むのだろうか。目の前まで近づいて来ている春の暖かな空気は、いまはどこに留まっているのだろう。ひっそりとした冬の静けさに包まれた池はまだ氷にとざされたままで波音一つない。雪は林の梢にくっついて花が咲いたように見える。学業に専念することなく、ただ書斎の窓の外をぼんやり眺めて、過ぎゆく年を歎いて学業に専念しないようではだめだ。


 さすがのちに大学者となる菅原道真。なんと14歳の時の作です。見事な漢詩というほかありません。そして学問に対する心がけが違い過ぎます。自分自身を振り返ると赤面の至りです。 立春を迎えたというものの、その前後からの寒冷は格別です。今週半ばからは温暖な日々となるとのことです。いずれにしろ春は確実に近づいてきているのです。

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